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神戸地方裁判所 昭和57年(行ウ)32号 判決

原告

桑原晴子

参加原告

桑原昭三

被告・参加被告

赤穂市

右代表者市長

笠木忠男

右訴訟代理人弁護士

滝澤功治

右指定代理人

金尾宗悟

外二名

主文

一  原告及び参加原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告及び参加原告の連帯負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨(原告及び参加原告)

1  被告・参加被告(以下単に「被告」という。)が桑原ふさ江に対し昭和五二年一二月二〇日付けでした換地処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告及び参加原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因(原告及び参加原告)

1  当事者

(一) 被告は、西播都市計画上仮屋土地区画整理事業(以下、「本件事業」という。)の施行者であり、亡桑原ふさ江(以下、「ふさ江」という。)は、本件事業施行区域(以下、「上仮屋地区」という。)内に所在する赤穂市上仮屋西組七〇五番の一宅地(一九・八三平方メートル)、同七一二番宅地(三七三・五五平方メートル)、同七一三番宅地(二五一・二三平方メートル)及び七一三番の一宅地(九・九一平方メートル)の四筆の土地(以下、「本件従前地」という。)を所有していたものである。

(二) ふさ江は、昭和五〇年一〇月一五日に死亡し、原告は、相続によって本件従前地を取得した。

(三) 参加原告は、昭和五八年二月九日に原告から贈与によつて後記の本件換地につき一〇〇分の一の割合の持分を取得し昭和五八年二月二四日被告を相手に本件訴訟に当事者参加したものである。

2  本件処分の存在

被告は、昭和五二年一二月二〇日付けで土地区画整理法(以下、「法」という。)一〇三条一項に基づき、本件従前地に対し、同市上仮屋北五番の七宅地(六四八・三三平方メートル、以下、「本件換地」という。)を指定し、あわせて交付すべき清算金を一六万三三〇〇円と定める処分(以下、「本件処分」という。)をした。

3  本件処分の違法

しかし、本件処分は、次の理由により法八九条一項に定める照応の原則に違反しているから、違法である。

(一) 地積についての不照応

本件換地は、本件従前地に対する仮換地(三八街区四)と比べて約六平方メートルの減歩となつているが、これは次の事情に基づくものであるから、本件処分は、地積において従前地との照応を怠つた違法があるというべきである。

(1) 本件従前地とこれに隣接する訴外山本しげの(以下、「しげの」という。)の所有する土地(以下、「隣地」という。)との境界(以下、「本件境界」という。)は、原告の本件従前地上に建築した土塀の「屋根の雨だれ落ち」(別紙記載のA、Bの各点を直線で結ぶ線上)であり、このことにつき原告の前主が本件従前地に居住し始めた明治初年以来、しげのの父である訴外山本吉蔵が隣地を所有した昭和九年ころまでは、隣地所有者との間で紛争が生ずることもなかつた。

ところが、右しげのは、本件境界が「土塀の外壁面」(別紙記載のP、Qの各点を直線で結ぶ線)であると強弁し、その後原告らとの間に紛争を生ずることになつた。

(2) その後、被告職員である訴外沼田建設課長及び同藤原正昭建設課員が昭和四七年三月二六日に原告方を訪れ、本件事業に関して、本件従前地の測量及び隣地との境界への杭打ちをする旨告げたが、その際、本件境界が「土塀の外壁面」であると主張した右沼田らと原告との間で紛議を生じた。そこで、原告は、右沼田らに対し、本件境界は、とりあえず原告及びしげのの双方の主張を前提とし、双方の境界上に打杭したうえで測量し、地積を算出すること及び右の測量結果を本件従前地と隣地の各公薄面積と照らし合わせることによつて正しい境界を確定することを提案し、沼田らもこれを了承した。

(3) そして、訴外片岡建設課員ら数名の被告職員は、翌二七日に再度原告方を訪れ、本件従前地及び隣地の測量を行つたが、その際、片岡らは、参加原告が前日の沼田らとの話合いの結果を信用してその場に立会わなかつたのを奇貨として、しげのの一方的な指示に従い、本件境界を「土塀の外壁面」であるとして、同線上に打杭をした反面、原告らの主張する「屋根の雨だれ落ち」上は、測量も打杭もしなかつた。

(4) その後、被告は、原告及び参加原告の抗議にも耳を傾けることなく、「土塀の外壁面」を本件境界とし、これに基づいて本件処分を行つたが、これによつて、「土塀の外壁面」と「屋根の雨だれ落ち」との間の「屋根の軒下部分」(別紙記載のA、B、Q、P、Aの各点を順次直線で結んだ線によつて囲まれた範囲の土地)は、被告職員の前記違法な測量により、不当に隣地へ取り込まれてしまつた。

(5) 右「屋根の軒下部分」の面積は、約六平方メートルであるから、これが前記仮換地から本件換地へ移行する際の減歩である。

(6) しかし、被告職員は、仮換地から換地へ移行する際、宅地については減歩がない旨回答していたのであるから、本件換地における減歩は、何ら正当な理由に基づくものではない。

(二) 環境についての不照応

(1) 本件従前地は、本件事業施行前には静かな住宅街の一画を占め、良好な環境を保持していた。

(2) しかし、本件事業の結果、本件換地のほぼ南側二〇メートルに幅員約一六メートルの都市計画道路塩屋御崎線が新設されるなど道路が増設され、本件換地は、激しい自動車騒音を受けるようになつた。

(3) また、これら増設された道路部分が地上げされた結果、本件換地は低地化し、雨水が道路部分から流れ込む事態も発生している。

(4) よつて、本件換地は、その環境についても本件従前地と照応していない。

4  以上のとおりであるから、原告及び参加原告は、本件処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の各事実は認める。

2  同3について

(一) 冒頭の主張は争う。

(二) (一)の冒頭部分につき、換地後の地積が約六平方メートルいわゆる減歩になつていることは認め、従前地との照応を怠つた違法があるとの主張は争う。同(1)の事実は不知。同(2)の主張は争う。同(3)ないし(6)の各事実は否認する。なお同(3)のうち、原告主張の年月日頃被告職員が現地測量等に出向いて測量したが、この測量は従前地の測量を行つたものではなく、換地の確定測量を行つたものである。

(三) (二)(1)の主張は争う。同(2)の事実のうち、本件換地の南側約二〇メートルに幅員一六メートルの都市計画街路を整備改善したことは認め、本件換地がそれによつて激しい自動車騒音など環境悪化を受けることになつたことは否認する。同(3)の事実は否認し、同(4)の主張は争う。

3  同4の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件事業の経緯の概略

(一) 本件事業の施行地区は将来赤穂市の住居地域の中心部となるべき面積二七万四九一八・三七平方メートルの一団地である。本件事業は、ここに街路網の緊急整備改善により、交通輸送効率の改善をはかり、播磨臨海工業地帯の開発と併せて新市街地を造り、もつて地域住民と公共の福利増進を図ることを目的として施行されたものである。

(二) 本件事業施行後、昭和四三年法律第一〇〇号による都市計画法の全面改正及び昭和四三年法律第一〇一号による土地区画整理法の一部改正等がなされたが、この改正法の施行前に事業計画等の認可の申請があつた土地区画整理事業にあつては改正後の土地区画整理法の規定にかかわらず、なお従前の例によるものとされたので、本件事業については、なお改正前の旧法の規定によるものとされた(都市計画法施行法三五条)。

(三) 本件事業の手続、経過等については別表西播都市計画上仮屋土地区画整理事業の経過の概略の一覧表のとおりである。即ち、

(1) 昭和四一年七月一四日付けで建設大臣は赤穂都市計画(西播都市計画)上仮屋土地区画整理事業を施行すべき区域を決定し、その旨告示した。

(2) 昭和四二年三月二八日付けで被告の上仮屋土地区画整理事業計画(以下「本件事業計画」という。)について縦覧の告示がされ、同年四月一日から同月一四日までの間法五五条一項にもとづく本件事業計画の縦覧手続が実施された。

(3) 昭和四二年五月二二日被告は、兵庫県知事に対し、改正前の法五二条による本件事業計画の認可申請をした。

(4) 昭和四二年五月二九日兵庫県知事は、建設大臣に対し改正前の法一二二条一項による本件事業計画において定める設計について認可申請をし、同年六月一五日建設大臣はこれを認可した。

(5) 昭和四二年六月二六日兵庫県知事は改正前の法五二条により本件事業計画を認可するとともに、同年七月四日改正前の法五五条七項により本件事業計画を認可した旨公告した。

(6) 昭和五二年八月一七日被告は本件事業計画を変更する事業計画(以下「変更事業計画」という。)について縦覧の告示をし、同年八月二〇日から九月二日までの間法五五条一項にもとづく変更事業計画の縦覧手続を実施した。

(7) 昭和五二年九月一七日被告は兵庫県知事に対し、改正前の法五五条九項により本件事業計画の変更の認可申請をした。

(8) 昭和五二年九月二〇日兵庫県知事は建設大臣に対し改正前の法一二二条一項の規定により事業計画において定める設計の変更認可申請をし、同年九月二一日建設大臣はこれを認可した。

(9) 昭和五二年九月二九日兵庫県知事は改正前の法五五条九項により変更事業計画を認可するとともに同年一〇月七日変更事業計画を認可した旨公告した。

2  仮換地指定に関する経緯の概略

(一) 被告は昭和四六年七月一三日付けをもつて、法九八条四項の規定にもとづき、原告所有の本件従前地である赤穂市大字上仮屋字西組七〇五番地の一、同字七一二番地、同字七一三番地、同字七一三番地の一に対し、三八街区符号四に合併型の仮換地の指定を通知した。

(二) 昭和四六年七月二八日被告の担当者は、原告に対し本件処分地はいわゆる現地換地であり、画地地積の確定に関しては隣接者の立会いを求めることが事業の円滑化に資すると判断するとともにその結果仮換地指定地積に修正の必要が生じたり台帳地積とも符合しないことがあり得る旨の書面をもつて通知した。

(三) 原告は昭和四六年九月二〇日付けで兵庫県知事に仮換地指定処分に対する審査請求を行つたが兵庫県知事は昭和四九年一二月二四日付けで本審査請求を棄却する旨の裁決を行つた。

(四) 更に原告は、昭和五〇年一月二五日付けで兵庫県知事の裁決を不服として建設大臣宛再審査請求を行つたが、建設大臣は昭和五三年三月三一日付けで再審査請求を却下する旨の裁決を行つた。

3  換地計画及び換地処分等に関する経緯の概略

(一) 被告は、換地計画策定のため、現地の測量、調査等を行うため土地立入通知を行うなどをして換地計画を策定(修正を含む)し、これにつき本件事業に係る上仮屋土地区画整理審議会の意見を徴したうえ、昭和四七年八月九日、昭和四八年二月一五日、昭和五一年一〇月一九日及び昭和五二年九月三〇日に換地計画(修正換地計画を含む)の縦覧の告示をし、それぞれ昭和四七年八月一五日から同月二八日まで、昭和四八年三月一日から同月一四日まで、昭和五一年一〇月二〇日から一一月二日まで及び昭和五二年一〇月五日から同月一八日の各期間縦覧手続が実施された。

(二) 原告は縦覧に供された換地計画について、昭和四七年八月二五日付けで法八八条三項に基づく意見書を提出した。

更に、原告は、昭和五二年一〇月二〇日付けでも意見書を提出したが、意見書の提出は法八八条三項の規定により、縦覧期間内にしなければならないものとされているところ、原告はこの期間を徒過して右意見書と題する書面を提出したので被告はこれを法八八条三項による正規の意見としては取り扱わず単なる要望書ないし陳述書として処理した。

(三) 被告は原告からの意見書の内容を審査するに際し、法八八条六項の規定にもとづき上仮屋土地区画整理審議会を昭和四七年八月三〇日に開催してその意見を徴した結果、意見書は不採択とする旨の答申を受け、昭和四七年一一月二九日付けで原告に対し、意見書については採択できない旨法八八条四項の規定にもとづき通知し、意見書に対する処理を終えた。

(四) 被告は昭和五二年一一月七日付けで兵庫県知事に対し法八六条一項の規定により換地計画の認可申請をし、同月一七日兵庫県知事は同月一七日これを認可した。

更に被告は、換地処分を行うにあたり権利調査を実施したところ、換地計画認可申請時からの従前地の権利について変動が認められたので昭和五二年一二月八日付けで兵庫県知事に対し法九七条一項の規定により換地計画の変更認可申請をし、兵庫県知事は同月一七日これを認可した。

(五) 被告は昭和五二年一二月二〇日付けで法一〇三条一項の規定により本件事業の換地計画において定められた関係事項を関係権利者に通知して換地処分をし、昭和五三年二月一六日兵庫県知事に法一〇三条三項の規定による換地処分の完了届を提出したところ、同知事は同月二八日、換地処分完了の届出があつた旨告示したので、被告は法一〇七条一項の規定により昭和五三年三月一日付けをもつて神戸地方法務局赤穂出張所に対し本件事業の換地処分の公告があつた旨通知した。

一方、法一〇七条三項の規定により換地処分の公告の日の翌日から土地区画整理登記が終るまでは一般の登記は一時停止されることになつているので被告は昭和五三年三月八日付けで全権利者宛に一般登記の停止等について通知した。

その後、換地処分時より換地処分の公告時までの間における従前地の権利を調査したところ、権利変動が認められたので、昭和五三年三月一六日付けで兵庫県知事に換地計画の変更の認可申請をし、同知事は同月二三日これを認可した。

被告は換地計画の変更部分に係る事項について昭和五三年三月三〇日付けで換地処分の通知をし、翌四月一一日付けで兵庫県知事に対し換地処分完了届を提出したところ、同知事は同月二五日右届があつた旨の告示をし、本件事業の換地処分は完結した。

(六) 原告は、換地処分を不服として昭和五三年二月二〇日付けで兵庫県知事に審査請求をしたが、昭和五七年七月二〇日同知事は審査請求を棄却する裁決を行つた。

更に原告は、知事の裁決を不服として昭和五七年八月二〇日付けで建設大臣に再審査請求を行つている。

(七) 被告は、神戸地方法務局赤穂出張所に対し、昭和五三年五月一日付けで換地処分による土地の登記嘱託及び昭和五三年六月八日付けで換地処分による建物の登記嘱託をそれぞれ行い、同出張所から昭和五三年六月五日に土地関係、昭和五三年六月三〇日には建物関係の登記が完了した旨の通知を受けた。

被告は昭和五三年七月七日付けで該当権利者に対し本件事業換地処分による登記の登記済証を交付した。

(八) 本件事業の換地計画には法九四条の清算金額を定めている。そして換地計画において定められた清算金は法一〇三条四項の公告があつた日の翌日に確定するものであるから(法一〇四条七項)、被告は昭和五三年五月一二日付けで関係権利者に対し確定された清算金決定の通知をした。

ところで、原告に対しては、清算金を交付するものとなつていたので、被告は昭和五三年六月一九日付けで清算金を交付する旨並びに清算金の交付申請書を提出するよう通知したが、原告はこれに応じなかつた。

そこで被告は原告に対し、昭和五四年三月五日付けで昭和五四年三月三一日までに清算金交付請求書を提出するよう督促し、かつ提出なき場合は清算金を供託する旨通知したが原告は指定期日までに清算金交付申請書を提出しなかつたので被告はやむを得ず民法四九四条の規定により、昭和五四年五月九日神戸地方法務局竜野支局に清算金を供託した。

4  本件処分の適法性

(一) 換地処分とは、換地計画において定められた関係事項を確定する処分であり、「関係権利者に換地計画において定められた関係事項を通知」して行われ(法一〇三条一項)、これをもつて足りるものである。

しかるところ、本件処分は、先に詳述したように、適法な手続、内容に従つてされたものであり、しかも法一一〇条の清算金の徴収及び交付も完結しているのであつて違法性の問題を生ずる余地はない。

(二) 原告は、本件処分は法八九条一項に定める照応の原則に違反しており違法であると主張するが、右主張は以下述べるとおり失当である。

(1) まず法八九条一項にいう照応の意義であるが、元来土地区画整理事業においては、都市計画区域内における一定範囲の土地を区画整理施行地区とし、右地区内の土地を一応全体的に把握して、これより必要な公共用地を控除し、その残地の区画形質を整然とした上、整理前(従前)の土地に存した権利関係を整理後の土地(換地)に移動せしめるものであり、かような土地の区画形質を変更するものであるから、従前の権利の対象たる土地の位置及び範囲を従前のまま存置せしめることは不可能である。

ことに、本件事業のように都市改造のため、道路、公園等公共施設の新設ないし拡張がされる場合にあつてはなおさらのことであり、すべての条件が従前の土地に外形的、形式的にすべて対応するよう換地を定めることは技術的にもほとんど不可能である。

したがつて、法八九条一項にいわゆる従前の土地との照応とは、同条項に定める、換地及び従前宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況及び環境等の諸事情を総合勘案して、指定した換地がその従前地と大体同一条件にあり、かつ、区画整理地区全域にわたるすべての換地が概ね公平に定められるべきことをいうものと解するのが相当とされている。

そうすると、指定した換地が、右規定に掲げられた位置、地積その他の個々的な点において従前の土地と必ずしも形式的に符合しない場合であつても、当該換地指定処分が直ちに違法とされるものではなく、それが右諸事情を総合的に考察してみてもなお、従前の土地と著しく条件が異なり、又は格別合理的な根拠なくして、近隣の権利者と比較してはなはだしく不利益な取扱いを受けたという場合でないかぎり、当該換地指定処分は違法とはならないものと解されており、その反面このような換地指定処分の結果生ずることあるべき権利者間の不均衡を過不足なく公平ならしめるため、いわゆる清算金の制度が設けられているのである。

(2) 原告主張の第一点(地積)について

原告は、本件処分は地積について不照応であると主張する。

まず、本件従前地の地積は、本件事業施行規程(昭和四一年九月三〇日条例第二三号)一五条の規定により土地登記簿に登載された地積にもとづき決定したものである。

元来土地区画整理事業においては、従前の土地の地積は実測地積とすることが合理的な処置ではあるが、本件事業のように整理が広汎な地域にわたりかつ大量処分をする場合においては、従前の土地を一筆毎に実測することは換地計画の実施上極めて困難であるので、土地登記簿登載地積を基準として決定することも許されるのであつて、このような決定方法も適法であることについては、既に最高裁判所の判例の承認するところである(最高裁昭和四〇年三月二日判決・民集一九巻二号一七七頁)。

ところで、原告の本件従前地には住家が存し、かつ、訴外隣接者の従前地にも住家があり、しかも本件従前地には公共施設の配置も計画されていないので、最も照応の徴憑であるいわゆる原位置換地としたものである。

そこで、換地計画の策定にあたつては換地地積の確定が必要であり、これが為現地において換地確定測定を実施するわけであるが、特に、いわゆる原位置換地の場合は関係者の立会いを求めて換地確定を行うことがより合理的であり、しかも円滑な事業推進に資すると考えられるので、全整理区域にわたりこれを実施し、本件換地についても同様に換地確定測量を経て本件処分をしたものである(原告が指摘するように本件従前地積算定の現地測量を行つたものではない。)。

なお、施行者は換地の設計にあたり、各権利者に対し、予め相談をしたり、若しくは了解を得なければならないというような規定はなく、一方換地指定にあたり、土地所有者又は関係者は特定の土地を換地として指定すべきことを要求する権利を有しないとされている(最高裁昭和三〇年一〇月二八日判決・民集九巻一一号一七二七頁)。

ところで原告は、訴外しげのの所有地の一部を原告の換地とすべきであると主張するが、これの主張は前述に照し失当であるばかりか、いわゆる減歩すべきでないとの主張も原告の主観的予測に基づくものであるにとどまるものであつて、これらのことは本件処分をするにあたつて考慮すべき要素ではないのである。

また原告は、本件処分にかかるいわゆる減歩は特定の場所(隣接地訴外しげのの所有地の一部)から発生していると主張するが、減歩地積というものは従前地地積と換地地積の差によつて結果的に出現するものであつて、特定の場所からいわゆる減歩が発生するという性格のものではない。

更に原告は、被告職員の協議に反した行為により地積について不照応ならしめたと主張するが、そもそも法定外の協議などが遵守されず、違法な測量であるとする右主張は原告の誤解にもとづくものであり、施行者は法の定める手続を履行すればそれで足りるのであり、ましてや隣接土地所有者との紛争は本件処分に何ら関連しないものであることはいうまでもない。

そして結果的には、本件従前地登記地積六五四・五二平方メートルに対し、いわゆる原位置換地をし、換地の確定測量の結果、換地地積は六四八・三三平方メートルとなり、約六平方メートルいわゆる減歩となつたものであるがこのことが本件処分を違法ならしめるものでないことは明らかであつて、原告の主張は失当である。

(3) 原告主張の第二点(環境)について

原告は、本件従前地は良好な環境であつたものが道路の新設により、本件換地は激しい自動車騒音を受けるようになり、また増設道路の為換地へ雨水が流入する事態も発生し、結果的に本件換地は環境上照応していないと主張する。

しかしながら、本件換地は前述したように全くのいわゆる原位置換地であり、面接道路の変更はない。本件換地の南側約二〇メートルの場所において幅員一六メートル(車道部九メートル)の都市計画道路の整備改善をしたが(整備前幅員約四メートル)、本件換地から一宅地離れた所の道路を整備改善したものであつて、本件換地が健全な住生活を営むうえにおいて支障となるような激しい自動車騒音をもたらすものとは到底考えられず、住宅地としての従前地の利用状況、環境等は基本的には改変されていない。

更に道路の整備に際しては雨水排水施設として道路側溝等も整備改善し、住環境の向上に努めており、環境が劣悪になつたなどの原告の主張は全くの虚偽、虚実であるといわざるを得ない。

すなわち本件従前地をとりまく環境としては道路においては幅員約四メートル程度であり、しかも排水施設も未整備でありおおよそ健全な住宅地とはいいがたい状態であつた。

ところが本件事業により本件換地をとりまく道路網も整備改善し、又排水施設、公園施設等も整備しており、環境上著しく良好となつており、原告の環境不照応の主張は明らかに失当である。

(三) 結論

以上述べたとおり、本件処分は法八九条一項の照応の原則に則り、しかも原告が取消事由としている地積、環境に限つても、その不照応は存せず、適法な手続、内容にしたがつてしたものであつて、これが取り消すべき違法事由は何ら存せず原告の請求はいずれも根拠がない。

四  被告の主張に対する原告及び参加原告の認否

1  被告の主張1について

(一)及び(二)の各事実は不知。(三)の事実のうち(2)の事実は認め、その余の事実は不知。

2  同2の各事実は認める。

3  同3について

(一)の事実のうち、昭和四八年二月一五日及び昭和五一年一〇月一九日の各告示は不知。同項のその余の事実は認める。(二)(三)の各事実は認め、(四)の事実は不知。(五)の事実のうち、被告が昭和五二年一二月二〇日付けで法一〇三条一項の規定により本件事業の換地計画において定められた関係事項を関係権利者に通知して換地処分をしたこと及び被告が昭和五三年三月八日付けで全権利者宛に一般登記の停止等について通知したことは認めるが、その余の事実は不知。(六)の事実は認める。(七)の事実のうち、被告が昭和五三年七月七日付けで登記済証を交付したことは認めるが、その余の事実は不知。(八)の事実のうち原告に対する清算金の内容については不知。

4  同4の主張はいずれも争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一争いのない事実

請求原因1及び2の各事実、同3(一)冒頭部分のうち、換地後の地積が約六平方メートルいわゆる減歩になつていること、同3(二)(2)のうち、本件換地の南側約二〇メートルには幅員一六メートルの都市計画街路を整備改善したこと、被告の主張1(三)(2)の事実、同2の各事実、同3(一)の事実のうち昭和四八年二月一五日及び昭和五一年一〇月一九日の各告示を除くその余の事実、同3(二)(三)の各事実、同3(五)の事実のうち被告が昭和五二年一二月二〇日付けで法一〇三条一項の規定により本件事業の換地計画において定められた関係事項を関係権利者に通知して換地処分をしたこと及び被告が昭和五三年三月八日付けで全権利者宛に一般登記の停止等について通知したこと、同3(六)の事実、同3(七)の事実のうち被告が昭和五三年七月七日付けで登記済証を交付したことは、いずれも当事者間に争いがない。

二次に、〈証拠〉を総合すれば、本件事業の目的は被告の主張1(一)のとおりであり、本件事業の経過の概略は同1(三)(1)ないし(9)のとおりである(被告の主張の1(三)(2)は当事者間に争いのない事実である。)。

また、〈証拠〉を総合すれば、本件事業の換地計画及び換地処分に関する経緯の概略は、被告の主張3(一)ないし(八)のとおりである(なお、前述のとおり(一)の事実のうち各告示を除くその余の事実、(二)(三)の各事実、(五)の事実のうち昭和五二年一二月二〇日付けで換地処分したこと及び同五三年三月八日付けで一般登記の停止等の通知をしたこと、(六)の事実並びに(七)の事実のうち昭和五三年七月七日付けで登記済証を交付したことは、当事者間に争いがない。)。

三そこで、本件処分の適法性につき検討する。

1  法八九条一項は、「換地計画において換地を定める場合においては、換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならない」と規定しているところ、土地区画整理においては、その本質上土地の区画、形質に変更を生じるものであるし、また道路、公園等公共施設の新設を伴うことが通常であるため、すべての条件が従前の土地に照応するように換地を定めることは、技術的にもほとんど不可能であるから、右規定において要求される「照応」とは、同条項に定める土地の諸要素を総合的に勘案して換地が従前の土地と大体同一の条件をもつもので、多数の権利者間においても均衡がとれおおむね公平である、という状態を指すものと解するのが相当である。そしてこのように解すべきことは、法が多数の権利者間に多少の不均衡の生ずることを当然のことと予定し、これを是正するために清算金の制度を設けていることからも明らかである。

したがつて、換地処分が右規定に定める照応の原則に反して違法とされるには、単に換地が従前の土地と比較して多少不照応の点があるというだけでは足りず、前記諸要素等を総合的に勘案してもなお従前の土地と著しく条件が異なり、かつことさらに特定の者の不利益を計つたとか、あるいは近隣の土地と比較して著しく不利益でそのことにつき合理的理由がない場合等の事情がなければならないものとするのが相当である。

2  以上の見解に従つてまず、原告ら主張の地積についての不照応があるかどうかにつき検討する。

〈証拠〉を総合すると以下の事実を認めることができ、同認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  西播都市計画上仮屋土地区画整理事業施行規定(昭和四一年九月三〇日条例第二三号)一五条によると、換地を定める場合にその標準となる従前の宅地各筆の地積は、法五五条七項に定める事業計画認可の公告のあつた日現在において登記簿に登載のある宅地については、当該登記簿に登載された地積によるとされているところから、本件においては、右規定により従前地の当該登記簿に登載された地積により従前地の地積を合計六五四・五二平方メートルと決定した(なお、兵庫県知事作成の裁決書である乙第一七号証中には、本件従前地の仮換地指定においては、右規程一五条三項を適用して本件従前地の地積を六八一・〇〇平方メートルと確定された旨の記載があるが、前示乙第三一号証(換地処分通知書)中の従前地の地積の記載及び兵庫県知事作成の甲第三及び乙第五一号証(裁決書)中の、本件処分においては従前地の地積を登記簿記載の地積に基づいて決定した旨の記載からみて、乙第一七号証の前記記載部分は採用しない。)。

(二)  本件は、いわゆる現地換地であり、本件換地の地積は六四八・三三平方メートルとされ、その減歩は六・一九平方メートルで減歩率は約〇・九パーセントにすぎない。他方、本件事業計画においては、公共保留地を合算した場合の減歩率は一四・七八パーセントとされている。

(三)  原告の本件換地の所在と同じ街区(三八街区)の他の者の減歩率を証拠にあらわれた範囲で算出すると、①訴外しげのの従前地二九七・五二平方メートルが四八〇・七四平方メートルに換地され、六一・五八パーセント増加しているが二八三万八四〇〇円が徴収され、②津野文彦の従前地二筆(上仮屋西組七〇五番、七〇六番)、計一〇一四・一四平方メートルが一一六五・八七平方メートルに換地され一四・九六パーセント増加しているが、一四〇万三七〇〇円が徴収され、③同人の従前地(同所七一〇番の二)五五八平方メートルが二五七・八三平方メートルに換地され、五三・七九パーセント減歩され、④中村喜市の従前地二七四・三八平方メートルが二五二・七四平方メートルに換地され、七・八八パーセント減歩されている(なお、同人に対しては従前地の権利価額に対し換地の権利価額が高くなつたことからその差額を徴収されている。)。

別紙 平面図(その1)

平面図(その2)説明書

(四)  前記施行規程一八条によると、換地の清算金の額は、従前の宅地の評定価額と換地の評定価額との差額とされ、本件においても原告の清算金一六万三三〇〇円は右規程に基づいて計算されたものである。

以上の事実からすると、なるほど、原告ら主張のとおり本件従前地に対し本件換地の地積が六・一九平方メートル減歩しているが、その減歩率〇・九パーセントは本件事業計画全体の減歩率一四・七八パーセントに比べると相当低い減歩率であり、同じ街区の他の者の減歩率に比較しても、原告のみを特に不利益に取り扱つたものでないことは明らかであつて、本件処分が地積において従前地との照応を怠つた違法があるとは到底いうことができない。

原告らは、右六・一九平方メートルの減歩は被告職員の違法な測量によつて原告らの従前地に属する「屋根の軒下部分」約六平方メートルが不当にしげのの隣地に取り込まれた結果生じたものであるから、本件処分は違法である旨強く主張するところ、右主張は要するに、被告職員が右隣地又は本件従前地を測量する際誤つて右「屋根の軒下部分」を右隣地の一部であり本件従前地の一部ではないと誤認したことを前提とするものと解されるので、この点につき判断する。

〈証拠〉を総合すると、被告職員による測量は、①昭和四〇年に本件事業全域の現況を把握するために行つた測量(宅地各筆の測量はしない。)、②昭和四六年七月頃に仮換地(図面上六三二・四八平方メートルとして通知したもの)が現地換地として行われ、そのために隣地所有者等の立会いのもとに実測による地積確定の必要が生じたことから行つた測量、③昭和四七年七月二二日頃には原告所有地に対する地積測量の三回があり、さらに昭和四六年一二月二日頃には原告ら及び隣地所有者立会いのうえ打杭するなどして被告職員が画地境界を確定していることが認められる。

そして、昭和四〇年の測量は隣地や本件従前地の測量をしたわけではないし、昭和四六年七月頃の測量は本件従前地に対する仮換地が現地換地であつたことから仮換地の地積確定のためにされたもので隣地や本件従前地の地積測量をしたものではなく、したがつて、右のいずれの測量においても原告らの主張する「屋根の軒下部分」(従前地に属すると主張)が隣地に取り込まれたということはできない。さらに、その後の昭和四六年一二月二日頃には画地境界を確定し、昭和四七年七月二二日頃には原告所有地の地積測量が行われているが、前記認定のとおり本件従前地の地積確定は当該登記簿に登載されたところによつて既に確定していることからすると、右境界の確定ないし測量はあくまでも本件換地の位置、地積を確定するためのものであつたといわざるをえない。したがつて、右隣地や本件従前地確定のため境界の確定ないし測量は行われていないのであるからこれによつて本件従前地積が減歩されたということはありえず、原告の主張は失当である。

3  次に、原告ら主張の環境についての不照応があるかどうかにつき検討する。

〈証拠〉を総合すると、本件換地はいわゆる現地換地であり面接道路の変更がないこと、本件換地の約二〇メートル南側に従来は幅員約四メートルでかつ行き止まりであつた道路が本件事業の結果幅員一六メートルの都市計画街路塩屋御崎線として整備改善され、かつ都市計画街路赤穂港線に接続されたこと、本件換地の北側約十数メートルのところに所在していた道路は本件事業により六メートルに拡幅されかつ他の道路とも連結されるなど全体的な交通網の整備改善がされていること、本件換地付近に従来は公園がなかつたが、本件事業の結果児童公園が設けられたこと、排水能力も前記塩屋御崎線整備に際し排水側溝を整備し地区全体の排水系統を改善していることが認められ、同認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実からすると、都市計画街路である塩屋御崎線は本件換地から一宅地離れた道路にすぎず、激しい自動車騒音をもたらすものとは到底考えられないこと、排水設備も改善されており、雨水が右道路から本件換地に流れ込む事情は認められないこと(原告らは検乙第八、第九号証をもつて排水設備の劣悪さを主張するが、参加原告本人尋問の結果及び証人本田勝一の証言(第一ないし第三回)によると、右写真は百年に一度あるかないかの台風災害のときのもので、当時赤穂市全体が水につかつた程の災害であることが認められるのであるから、右災害当時の排水事情をもつて本件事業による排水設備の劣悪さを主張することはできない。)、むしろ道路網が整備改善され、排水施設のほか公園まで整備されたのであるから本件換地の環境は以前にもまして改善されたといわなければならない。

したがつて、原告らの環境について不照応があるとの主張は失当である。

4  以上のほか、本件記録を精査しても、本件換地が法八九条一項に定める土地の諸要素につき照応しないことをうかがわせる証拠はなく、また本件処分に至るまでの経緯手続も前記認定のとおりでなんら違法な点も認められず、法一一〇条の清算金の徴収及び交付も既に完結しているから、本件処分は適法である。

四結論

よつて、原告及び参加原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官野田殷稔 裁判官小林一好 裁判官横山光雄)

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